「今年はバイクに跨って、風を感じる時間がずいぶんと長かったから」
同級生で、相棒で、茅葺き職人の相良育弥が発したその言葉から、今年は「風」を感じるものにしようと話がまとまった。竹中工務店が運営するミュージアム、竹中大工道具館(新神戸)に庭をつくらせていただいたご縁から、年末には門松装飾を担当している。
その初年度から彼とともに制作を行い、今回でかれこれ八年目を迎えた。庭師と茅葺き職人。それぞれが今年経験してきたことをこの場に持ち寄り、結集させていく。それはこの場所をおとずれる年神さまに向けた奉納である。
この儀を執り行う上で、忘れてはならないことはひとつ。それは神様はアソビが大好きということだ。〔遊ぶ〕という動詞は本来神様の行動と結びついた言葉であったように、神様を退屈させてはいけない。この場所で楽しい寄り道をしてもらわなければならない。
そういうことで、何よりも私たち職人がアソビを忘れてはならないのだ。八年目となれば、彼とは阿吽で共有できることも多くなり、事前の打合せはメッセンジャーで数回やりとりを交わすのみ。そして今年はバイクに跨(またが)って感じる「あの風」。このコードとリズムだけを共有し、後はそれぞれがお馬様(午)が気持ちよく野原を駆ける景色をイメージした。
企画書も設計図もなく、あらかじめ共有したものは門松の台座となる石臼の寸法だけだった。どんな素材を現場に持ち寄り、そこでなにを組み立てるのか。互いに知らないまま、その場のやりとりを楽しむことにしていた。
奈良(山城)の山から刈り取ってきた孟宗竹。草津の旧家から譲り受けた松。それをまず石臼の台座に設置する。松竹の香りがあたりに立ち込めながら、まずその構えが決まる。そこには能楽堂の「鏡松」を思わせるような清々しさと、歌舞伎の「見得」のポーズがよーっと決まる凛々しさがすでにあった。
松があまりにも立派な出立ちで、石臼と竹を転倒させてしまうほどの勢いがあったので、近くの庭に生えていた観音竹を刈り、頬杖を渡してやった。太いもの(松)の力強い構えを細いもの(竹)が下支えする。ここにも物語は宿る。
彼の方は、木曽(長野)のススキを一本一本揃えながら小束をつくり、御柱となる竹をぐるりと包み込むように成形されたフレームにそれを編んでいく。小束は真鍮のワイヤーで結ばれ、時折差し込む光が反射してきらきらと輝く。黄金色の新春を予祝する、粋な発想だ。
ミュージアムの前は車の通行量が多く、そのエンジン音がよく聴こえてくる。そこに竹を切る音、松の香り、ススキのささやきが重なり、いろんな生き物がジャズ・セッションさながらに生き生きと躍動していた。フェラーリが通り過ぎたときには、早くも門松の方から馬のいななきが聴こえてくるような気さえした。
八年もこのセッションを続けてきたこともあって、地域の人たちもこの日を楽しみにしてくれているようだった。近所の方が数時間おきに現場を覗き、声を掛けてくれる。仕事が暮らしの中の風物詩になることは、とても気持ちがいいことに思えた。
立派な出立ちの門松がススキによって包まれるだけで十分美しかったが、彼はその囲いと竹の間隙にも丁寧にススキを差し込んでいく。節を空けた竹は神様の出入り口となるが、これによってその中の快適さまで用意された。それは産小屋のような優しさに満ちていた。
最後に赤い実が可愛らしいナンテンを飾って、完成を迎えた。松の枝ぶりはまるで疾走する馬の足、風になびくススキは馬の立髪。年を跨ぎ、駆けていく。気持ちのいい風が見えた。
ウマは年を跨ぎ、駆けていきます。じっとするのも松の内だけ。ぜひこの間に竹中大工道具館に足を運んでみてください。
[ EXHIBITION ]門松展示
時:2025.12.25 (Thu) ~ 2026.1.12 (Mon)
処:竹中大工道具館
庭 師 | 猪鼻 一帆
茅 葺 | 相良 育弥(くさかんむり)
編 集 | 佐伯 圭介(星ノ鳥通信舎)