千本通と丸太町通の結び目。ここからほど近くのところに勝巖院(しょうがんいん)という浄土宗のお寺がある。
千本通は平安京のメインストリートにあたる朱雀大路の後名で、このお寺が建つ場所はかつて天皇が住まわれた大内裏の向かいの地、いわば京都の北極星にあたる。お寺として400年、平安京の時代から1200年にわたる歴史のあるこの場所に長らく放置されていた庭園。その修復・作庭・造園をこのたび担当することになった。
京都には約3000を超える寺院があり、そこには大なり小なり庭が存在する。美しく保たれた庭もあれば、そうとはいえない庭も数多く点在する。庭は「生きもの」であり、維持するためには多少なりともお金がかかるものであるが、切り詰められた予算によって無惨に切られ、自然に還ることさえ許されない庭のすがたをこれまで嫌というほど見てきた。
観光客の足が途絶えたコロナ禍には、管理費を減らすことを目的に、雑木の庭を石庭に変えるお寺もあったと耳にする。時代や社会の変化に合わせて、庭もまた生き延びていかなければならない。そういう事情があることは間違いないが、経済合理性や社会のシステムとは別のところで、庭が生き延びていく方法はないものだろうか。
場をはぐくむためにつくられる「庭」が、算盤のロジックでいとも簡単に改変または放棄される状態に、そろそろ待ったをかけなければならない。
そもそも、庭は守る(べき)ものとして語られることが多いが、なぜ守らないといけないのだろうか。そこに一度立ち返ったとき、至極当たり前のことを再確認する。庭はヒトを守るものだからである。庭はヒトを守ることで守られ、ヒトもまた庭を大事にすることで癒され、ときに救われる。庭とヒトはいつも「相互扶助」の関係の中で、ともに生き延びることができる。片想いでは長続きしない。
そのために、まず庭師は一番近くで庭を見守る施主(Owner)に愛される庭を創らなければならない。そして、寺庭のように不特定多数のヒトにひらかれる場所であれば、庭がそこを行き交うヒトにどんな恩恵をもたらすことができるのか。そこを多角的に考えなければならない。
生きることに寄り添い、生きるために用いられ、生きることを養うことができてはじめて、庭はヒトを守ることができる。そういう意味で、庭は「実用的な場」になっていかなければならない。
また、庭師が直接手入れを行うことだけが庭を守ることではない。庭を歩くことも、眺めることも、語ることも、考えることも含めて、庭に多様な動詞がもたらされることで、そこに愛着がうまれ、庭は守られていく。
これからのお寺のありかたを模索し、まず「みんなのよりどころ」となる庭を整える道を選ばれた勝巖院さまのプロジェクトは、これからのお庭のありかたを「守りかた」も含めて考える一層の機会である。
関わるすべてのヒトが(Owner)になるとかではなく、それぞれが日常的に庭にケアされながら、また庭をケアする。双方にやさしい手を伸ばす動詞によって育まれ、守られていく庭の景色をそこに思い描く。いまを生きるヒトに寄り添い、愛される寺庭をつくるために、夢創園としてもさまざまなパートナーの皆さまとともにその仕掛けや仕組みを考え、庭をさまざまな方法で社会にひらいていきたい。
今回のプロジェクトに際して実施されているクラウドファンディングでは、職人たちと一緒に庭をつくる機会や庭木(イロハモミジ)の植樹権に加え、四季ごとに手入れを行うわたしたちのもとで庭のことを学びながら、土や植物に触れ、コミュニティメンバーとの交流を楽しむことができる会員も募集しています。
新しい産業と社会から近代の庭園が生まれてきたように、地域のコミュニティが主体となる社会から、21世紀の庭園と風景が築かれていく。これからの景色をぜひご一緒につくりましょう。
◉ クラウドファンディング情報
『みんなのお寺のためのみんなの庭づくり』
THE KYOTO クラウドファンディングにて
期間:25.10.17(Fri)— 26.1.14(Wed)
https://the-kyoto.en-jine.com/projects/shogan-in
案内人 | 猪鼻 一帆
連レ人 | 佐伯 圭介(星ノ鳥通信舎)